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高松地方裁判所 昭和31年(ワ)251号 判決

原告

株式会社玉藻モータース

被告

美濃保夫 外一名

主文

被告両名は連帯して原告に対し金九万円を支払え。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は四分しその一を原告の負担としその余を被告等の連帯負担とする。

事実

(省略)

理由

被告美濃保夫が原告会社に雇われ同会社の販売業務に従事していたこと及び被告新四郎において右保夫が業務上原告会社に加えた損害につき連帯して賠償する約定をしたこと並に被告美濃保夫が昭和三〇年一二月二五日午后四時半頃、原告会社店頭において、同会社商品であるクルーザー号軽自動車を氏名不詳且つ一面識もない男を試乗させ乗逃げされた事実は当事者間に争いがない。

ところで原告は右乗逃げにつき被告保夫に業務上重大な過失があつたものであると主張し、被告等は、原告会社代表者川西源平や専務某の指示により右試乗を許したものであるから同被告に責任はないと争うので審究するに、証人川西一雄の証言、原告代表者川西源平及び被告美濃保夫の各本人訊問の結果によると、次の如き事実が認められるので、原告主張の如く被告保夫の業務上重大な過失は免れ難いと云うべきである。即ち、被告保夫は、所謂外交による販売を担当するものであるところ前示一二月二五日午后四時半頃原告会社店頭え来た男に対し自ら応対に当りともに店舗外え出て話合つたものであるが、その際相手の男が同被告は勿論原告会社責任者とも一面識のない、しかも住所氏名不詳のものであり、そのうえ年末の薄暮の頃でもあつた、ばかりでなく相手の男が前示自動車の試乗しようとするにつきそのような場合通常車の後方に同乗し、又は他の車に乗つて追随する等適宜の措置を採るの注意を払いもつて乗逃げ等の事故を防止する義務があるに拘らず、それ等措置を採らず漫然試乗させたため遂に前示乗逃げの事故を惹起するに至つたものであることを認められる。前示被告保夫本人尋問の結果中右事故は原告会社店頭販売の際生じたしかも試乗は原告会社責任者の指図、承認のもとにしたものであるかのような部分は右認定により場所的には店頭と云えないことはないが右認定の如き事実及び経過と前示川西証人の証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば被告保夫のした前認定の応待は店頭責任者の監視監督を脱し同被告の責任においてしたものであると云うべき事情であり所謂店頭販売と云えないこと又試乗を原告会社の責任者が承認したようなこともないことが窺われるに比照し信用し難い。

そうすると被告保夫はその担当業務の過失により原告会社にクルーザー号軽自動車一台を喪失せしめるに至らせ損害を被らしめたものというべきであるから、原告会社に右損害を賠償すべき責を負うものといわねばならない。

ところで原告は右自動車は他え代金一二万円で売約していたので同額の損害を被るに至つたと主張し、前示川西証人の証言中それに副うようなものがないではないが、それを被告保夫において予見し又は予見し得べかりしものであるかのような部分は前示被告保夫本人尋問の結果に照らしたやすく信用し難く他に肯認し得る証拠はない。然らば右自動車の当時の価格は被告において九万円が相当であると主張しその限度において争いがないものと云うべきであり特別事情による損害の主張には通常生すべき損害の主張を含むと解すべきであるから被告保夫は原告に対し損害金九万円を賠償すべきである。だから被告新四郎も約定により連帯してこれを賠償すべきである。

以上のとおり原告の請求は金九万円の限度において正当であるからこれを認容すべきであるがその余は失当であるから棄却するものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を適用して主文の如く判決する。

(裁判官 太田元)

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